肉を柔らかくジューシーにするブライニングについて調べる。

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肉を柔らかくする方法を調べていたらブライニングという方法を知りました。調べてみると方法自体は簡単ですが原理が難しかったので肉を柔らかくする方法とは切り離して一つの記事にしてみました。

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参考文書

「肉の機能と科学」(朝倉書店)

「塩の科学」(朝倉書店)

ブライニングとは

ブライニングとは塩水などの調味液(ブライン液)に肉をつけて一定時間置いておいてから取り出し加熱調理する方法です。

ブライン液に肉をつけてから加熱をすると加熱で抜けてしまう水分が残り仕上がりがジューシーで柔らかい食感になります。

一説には昔船乗りが海水につけた肉を調理したらジューシーで美味しかったという偶然から生まれた調理法と言われています。

また唐揚げは調味液に漬け込んで作るためブライニングと同じ効果が生まれジューシーな仕上がりになるようです。

ブライニングの原理

1番シンプルなブライン液は塩と水の塩水です。それぞれに肉が柔らかくなる効果があり、この二つの作用によりブライニングを行うとよりジューシーで柔らかい仕上がりになります。そのため原理は塩と水を分けて説明します。

肉は水につけると「浸透圧」という濃度の違う水が隣り合わさると濃度を一定にするため水が濃度の高い方から低い方へ移動する力が働きます。

肉の細胞内部の水分よりも外部である周りの水の量が多くなるので内部と外部の水の量を一定にするため肉の細胞内部に水が浸透していき細胞内の水分子が増えて結果的に肉汁が多くなった状態になります。また肉の大部分であるタンパク質は水分を含むと膨らみ柔らかくなる性質もあります。

食塩にはタンパク質を「溶かす効果」と「固める効果」があり、それぞれ水分を保つ効果が違います。

食塩のタンパク質を溶かす効果

食塩は筋繊維を溶かしてゆるみを作り、そのゆるみに通常よりも多くの水分を含ませることができるため肉をしっとりと柔らかくする効果があります。 練り物や麺を作るときにこの作用が利用され弾力や粘り、しっとりとした食感を生み出しています。溶かす効果は1~2%の塩分濃度で効果が強く現れますがタンパク質の保水効果が高まる原理は完全には解明されていないそうです。

食塩のタンパク質を固める効果

食塩は肉のタンパク質構造を壊し変性させて固める作用があります。
肉に直接食塩を振りかけると浸透圧によって表面の水分が塩に移動してタンパク質から水分がなくなり固くなります。さらに表面にかけた塩分により肉表面のタンパク質が固まり焼いた時に内部の水分が外部に流れ出ることを防いでくれることで肉が固くなるのを防いでくれます。固める効果は5%以上の塩分濃度で作用が強く現れます。
(しかし固める効果は肉を焼く時の表面に効果が発揮されるためブライニングではあまり効果がありません。)

※熱によるタンパク質を固める効果の増強
タンパク質は加熱すると構造壊れタンパク質同士がくっつきあい固くなります。このことを熱変性といいます。
塩分濃度が高いと肉の表面タンパク質が固くなり焼いた時に肉が固くなるのを防いでくれますが塩分濃度が低くても加熱をするときに表面に塩があると熱変性を起こす温度が低くなるため、加熱中に表面のタンパク質が早く固まり肉内部の水分が外部に流れにくくなり肉が固くなるのを防いでくれます。また塩は水に溶けるとイオンに分かれ、塩水で茹でる場合はタンパク質の表面にある電気的な反発力をイオンがなくして肉表面を固まりやすくします。
そのため塩分濃度が5%以下であってもタンパク質を固める効果は期待できます。
(ブライニングでの固める効果は熱によるタンパク質を固める効果の増強が発揮されます。)

原理のまとめ

上記を総合すると

  • 水に漬けると浸透圧により内部の水分が増え肉汁が多くなる。
  • 塩のタンパク質を溶かす効果により多くの水分を含ませることができる。
  • 塩の熱変性促進により加熱時表面が早く固まり内部の水分が流れ出るのを防ぐ。

この三つの効果によってブライニングをすると肉の水分減少抑えられてジューシーで柔らかくなると考えられます。

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ブライニングの方法

まずブライニングはどんな肉でも効果がありますがタンパク質に作用するため特に脂肪の少ない筋繊維が太いパサつきやすい肉に使うとより効果が実感できます。(鶏むね肉など)
薄い肉は表面積が多く加熱後の水分減少も激しいためブライニングの効果は感じにくくなります。

漬け込む濃度

塩分濃度は調理方法、液の量、肉の量、浸け時間よって調整する必要があります。
料理の塩加減は0.8%〜2%程度が美味しいと言われるため目安としてブライニング後に肉自体に味を付けない場合は海水の塩分濃度3%程度に漬け込むと0.8%〜1.5%程度の塩加減になります。この場合肉を汁に入れる場合(カレー、スープなど)は汁自体がちょうどいい塩味であれば肉を入れても濃くはなりません。肉にソースなど濃い味付けをする場合(ステーキなど)は塩分濃度を少なくして調整します。

漬け込む時間

漬けこむ時間は薄い肉は短く、厚い肉は長くします。
肉の量や厚みなどによって変わりますが大きな塊肉でなければ30分程度で効果が出てきます。異なる濃度の液体は濃度を一定にする働きがあるため、長時間漬けても塩分濃度は一定以上増えませんが腐敗などの可能性があるため冷蔵庫で保管し最長でも2日程度で使用するのがいいでしょう。

長時間漬けると肉内部まで塩分が入ります。塩濃度が高いと塩辛くなることがあるので、調味液の量や濃度によって時間を変える必要があります。

試してたところ3%の塩水200mlに鶏肉皮なし一口大200gを48時間漬け込みましたが肉自体は味が付いていますが塩辛くはありませんでした。(この濃度で唐揚げを作るとさらに調味液に浸けて揚げて水分を飛ばすため食べれないほどではありませんが塩辛くなりました。)

漬け込む量

漬け込む量は肉が液に完全に漬からなければならないため肉の形状によって入れ物を変える必要があります。よほどのことがなければボールを使えば浸かりますがステーキ肉のような薄く長い肉はバットのような入れ物のほうがいいかもしれません。

長時間漬ける場合は塩分濃度を考えて液と肉を同じ量にすると目安としてわかりやすくなります。
例として200gの3%塩水に200gの肉を入れると塩分を一定にするため200gの肉に半分の1.5%の塩分が移動するというイメージです。この場合正しく計算をすれば脂肪があったり水分量が違ったりと肉にちょうど1.5%濃度の塩が移動することありませんが2日後にはそれに近い塩気が入っています。

実際の調理[画像付き]

濃度、時間、量は使用する肉の種類、大きさ、鮮度、調理方法、味付け方法などによって変わっていきます。一度で完璧な塩加減と柔らかさにはならないので何度が試行錯誤を繰り返して作りたい料理を完成させる必要があります。

鶏肉の調理例(3%塩分濃度)

  • 鶏肉 200g(皮と余分な脂肪を取り一口大に切る。)
  • 水 200g
  • 塩 6g

水と塩をよく混ぜ塩の粒が残らないようにする。
塩水に切った鶏肉を入れ、全体が塩水に浸かるようにかき混ぜる。
塩水から鶏肉が出ないように沈め、ラップをして冷蔵庫で保管する。(下の画像)
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冷蔵庫で約48時間後の鶏肉。塩水に血液が染み出しています。f:id:SCcubed:20190318162432j:plain

1日から2日後ザルにあけ水気を切る。ブライニングした肉(左)と何もしていない肉(右)の比較。鶏もも肉を同じようにカットしてほぼ同じ部分の肉片です。何もしていない肉は水洗いをして表面の水分量を同じようにしました。
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真上から見た状態です。ブライニングした肉(左)は水に浸けたため少し白っぽくなっています。f:id:SCcubed:20190318163415j:plain

こちらも同じく白っぽくなっていますが表面により水分があるように見えます。(左)
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少し厚みがわかるように横から撮りました。カットの仕方にもよりますがブライニングをした方(左)は水分を含んで少しふっくらしているようにも見えます。
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油を引いたフライパンで弱火で中心まで加熱します。一緒に余った鶏皮も焼きています。(ブライニング左)
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真上から撮影。ブライニングをした方(左)は水分が多いためか肉汁が出ているようです。(左の肉の右上)焼いて1分もしていないと思います。f:id:SCcubed:20190318164240j:plain

裏返して横から撮影。特に大きな違いはわかりません。f:id:SCcubed:20190318164317j:plain

上から撮影。やはりブライニングをした方(左)が肉汁が出ているようです。(左の肉の左側)f:id:SCcubed:20190318164314j:plain

中心まで加熱後に鶏肉を焼いていた場所から横に移動して撮影。

ブライニングをした方(左)が肉汁の後が残っています。

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焼き上がり比較しました。ブライニングした肉(左)、何もしていない肉(右)です。
何もしていない肉の方が縮みが多いように思えます。焼くとブライニングした肉(左)は赤っぽく、何もしていない肉(右)は黄色っぽい色になりました。f:id:SCcubed:20190318164415j:plain

横から撮影。厚みは前後ろを比較するとそんなに変わらないと思います。f:id:SCcubed:20190318164431j:plain

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断面を横から撮影。変わらずブライニングした肉(左)、何もしていない肉(右)です。f:id:SCcubed:20190318164447j:plain

横に並べてアップで撮影。断面構造が違うのでなんとも言えませんが何もしていない肉(右)も切り口から肉汁が出てジューシーに見えるため、あまり違いはありません。f:id:SCcubed:20190318164452j:plain

写真での比較後食べてみました。当たり前ですが何もしていない肉は塩などの味つけもしていないので肉の味しかありません。ブライニングした肉は食べ続ければ少し濃いかなと思うくらいしっかり塩味がついています。この味付けであればソースなどで煮込むような場合は中の塩が外に出るのでちょうどよくなると思います。ステーキなどでソースをかけて食べる場合には味が濃いのでもう少し薄い塩水につけるほうがいいでしょう。

問題の柔らかさですが今回は加熱の方法が弱火でゆっくりと加熱したので低温調理のような状態になり、あまり加熱によって固くなりませんでした。そのため何もしていない肉もそれなりに柔らかくジューシーでした。しかし比較をするとやはりブライニングをしたほうの肉の方が少し柔らかく噛んだときに肉汁がよく出ると感じました。焼いたためか特に水っぽさもなくジューシーという印象です。

弱火でゆっくりと加熱したため大きな差は感じられませんでしたが加熱温度が高かったり、加熱時間が長いと違いがより出てくると思われます。実際に調理ではそのようなことの方が多いので手軽においしくする方法としては優秀だと感じました。

まとめ

最低限の材料は塩と水だけなのでほとんど費用がかからず美味しい肉を食べることができるブライニングですが塩加減の調整が難しいのである程度の試行錯誤は必要だと思います。
ブライニングの欠点は多少時間がかかることと、物によっては肉の生臭さが抜ける反面、水分を含みすぎで水っぽい仕上がりになることもあります。
適材適所という言葉がある通り、適した料理に使うことでより料理が美味しくなります。

興味がありましたら是非お試しを。

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