肉を柔らかくする方法を調べてみると色々な方法があり、ごちゃごちゃしていたので一つずつ理由を調べてみました。
参考文書
「肉の機能と科学」(朝倉書店)
「塩の科学」(朝倉書店)
「乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス」(京都大学学術出版会)
肉の固さを決めるもの
肉の固さを決めるものは
- 筋肉そのものである筋繊維
- 筋繊維を包み込んでまとめている筋膜
- 筋肉内に入り込んでいる脂肪
主にこの3つの要素によって肉の固さが決まります。
肉が固くなる原因は筋繊維と筋膜にあり
筋繊維の主成分はタンパク質で、タンパク質は加熱すると変性して縮み、内部の水分が絞り出されて固くなります。特に安い肉は筋繊維が太くて長いので加熱すると大きく縮むためより固くなります。
筋膜の主成分はコラーゲンで、スジと呼ばれる部分もコラーゲンでできています。肉の固さはこのコラーゲンの量と質に影響されコラーゲンが多いほど固くなります。筋膜は筋繊維をまとめて支える役割をしているため体の大きな動物ほど体を支えるための大きな力を必要とするため筋膜も比例して厚く丈夫になります。 またスネ肉などの力がかかる部分も筋繊維を守るためにコラーゲンが多くなります。
コラーゲンは成長により量が増加していき成体になると増加が止まるため、若い個体のほうが肉が柔らかく、成体になるほど肉が固くなります。さらに成体から年取るとコラーゲン自体は増えませんがコラーゲン同士が徐々に結合して固くなるため年を取れば取るほどさらに肉は固くなっていきます。
脂肪はタンパク質よりも柔らかく加熱すると溶け出します。
筋肉内に見られる脂肪の量が多いと筋肉組織を細かく分断し霜降り肉になり、筋肉内の脂肪は量が多いと相対的にタンパク質の割合が少なくなるので肉は柔らかく感じます。また脂質は加熱して溶け出すと肉の外に染み出して滑らかな触感にする効果もあり食べた時の美味しさに繋がります。
肉が固くなる原因
筋繊維の主成分であるタンパク質はアクチンやミオシンなどの物質から出来ています。
肉は加熱するとタンパク質のミオシンが50℃程度で変性し固くなり始め、60℃ではコラーゲンが変性し、80℃でアクチンが変性し固くなり水分が絞り出されて減っていきます。タンパク質であるアクチンやミオシンは温度が高くなり、時間をかけるほど水分が抜け出て固くなりますがコラーゲンは60℃で一度固くなってから加熱を続けるとゼラチン化して柔らかくなります。コラーゲンは65℃以下ではほとんどゼラチン化はしませんが75℃から85℃を超えるとゼラチン化が急激に進み温度が高くなるほど短時間でゼラチン化していきます。コラーゲンのゼラチン化は65℃以下では、ほとんどしないか相当な時間が必要になります。(ただしいくら時間をかけても煮込んだように全体がゼラチン化しないと思われます。)
タンパク質は長時間加熱することで固くなり続けますが筋繊維をつつむ筋膜のコラーゲンがゼラチン化するためタンパク質でできている筋繊維自体は固いものの繊維がほどけ崩れるような柔らかい肉になります。また魚は肉よりもコラーゲンが少ないため加熱しても肉より固くなりません。
肉が柔らかい条件
- 体の小さい動物
大きな体の動物ほど体を支える大きな力が必要なため筋繊維を支える筋膜も厚く丈夫になります。そのため体の小さい動物ほど筋膜の量が少なくなり肉自体も柔らかくなります。牛肉、豚肉、鶏肉では体の大きい牛肉が1番固く、体の小さい鶏肉が1番柔らかい。
例えば鹿は体の大きさから牛肉より柔らかく、豚肉よりは固い。(しかし家畜は柔らかい肉質に改良されているため野生の鹿との比較では正確には測れない。) - 成体前の若い個体(幼体)
若い個体は固さの原因であるコラーゲンが少ないため柔らかい。成体になったあとも出来るだけ若いほうがコラーゲンが結合して固くなっていないため老体よりも柔らかい。 - 脂肪の多い肉
脂肪は量が多いと相対的にタンパク質の割合が少なくなるので肉は柔らかく感じる。 - 筋繊維が細い肉
筋繊維が太いと加熱した時の縮みが大きくなりより固く、より水分が抜け出すため肉が固くなる。 - 筋膜が薄く、質のいい肉
筋膜の主成分であるコラーゲンが固さの原因のため、筋膜が厚いと肉は固くなる。
筋膜の厚さが同じでも筋膜の質によっては固いこともある。 - 筋繊維を変性させない
筋繊維は加熱すると変性して縮み、水分が抜け出すと固くなります。
65℃以上の加熱で変性は急激に進み、より水分が抜け出します。低温調理により65℃を超えない加熱をすることで筋繊維の変性を抑えることができますが食中毒への注意が必要。ただし脂肪が多い霜降り肉の場合は低温で加熱してもタンパク質の割合が少ないため柔らかくなる効果はあまり感じられません。 - コラーゲンを硬化させない
筋繊維の変性と同じように筋膜の主成分であるコラーゲンも加熱により固くなります。80℃以上で加熱すれば急激にゼラチン化して柔らかくなりますが同時に筋繊維は縮み固くなっていきます。そのため低温調理で60℃以下の加熱をすることでコラーゲンが固くなるのを最小限にすることもできます。関連記事以前に真空低温調理器具の比較を記事にしましたが、今回は必ず知らなければならない低温調理の危険性と安全性について調べてみました。以前の記事には書きませんでしたが低温調理(真空調理法)は今までの加熱調理の概念とは異なる方法で加熱[…]
- コラーゲンを分解しゼラチン化する
80℃を超えて長時間加熱することでコラーゲンが分解し、柔らかいゼラチンに変化されます。均等に食材を加熱できる「煮る」ことが簡単な方法です。ただしコラーゲンはスジや筋膜に含まれるためスジや筋膜の少ない霜降り肉やヒレ肉には効果があまりありません。 - 筋肉内の水分を保つ(減らさない)
筋繊維内に水分があると肉は柔らかくなるため上記以外にも保水性を高める物質(下記紹介)を使うことで水分減らなくなり肉が固くなることを防ぐことができます。
肉を柔らかくする方法
肉を柔らかくする方法を分類別に分けて解説します。
肉はもともと柔らかいものなので調理をして、できるだけ固くしないことが肉を柔らかくする方法になります。
様々な方法がありますが肉が固くなる原因は主に加熱で起こるため加熱方法には気をつけなければいけません。どの方法が1番効果的というよりかは料理や調理法にあった方法を選ぶことが重要です。
肉の水分を保つ(減らさない)
色々な方法で肉に水分を含ませる、または減らさないことで肉は柔らかさを保ちます。水分を減らさないことが重要なためフォークなどで穴を開けたり、叩いたりすると内部に水分が入りやすくなりますがその反面筋繊維が傷つき、加熱するとそこから水分が抜け出てしまうため水分を保つ方法では肉に傷をつけないようにする方が柔らかさを保ちやすくなります。
煮込む
肉は加熱するとタンパク質が縮み水分が抜け固くなりますが、煮込むことで調理時に周りに水分がある状態が保たれるため他の加熱方法よりも肉に水分が残りやすく固くなりにくくなります。
水に漬ける
肉は水につけると肉のタンパク質の細胞内部よりも外部の水が多くなるので内部と外部の水の量を一定に保とうとする力が働き、肉の細胞内部に水が染み込んで(浸透)いき細胞内の水が増えます。タンパク質は水分を含むと膨らみ柔らかくなる性質があり水が増えることで結果的に肉汁が多くなりジューシーな肉質になります。長時間漬けることにより水が肉へ入り込んで効果が現れます。
油を塗る(漬ける)
肉の表面に油を塗ることで焼いた時に加熱をしていない面の水分が蒸発するのを防ぐため焼き上がりに何もしないで焼いた肉よりも内部に水分が残り柔からくなります。
霜降り肉は脂肪の量が多いためタンパク質が少なく肉が柔らかく感じますが、さらに焼いた時は網目状の脂肪が熱で染み出し表面を覆うので油を塗らなくても水分の蒸発が抑えられより柔らかい肉質になります。
食塩
食塩にはタンパク質を「溶かす効果」と「固める効果」があり、それぞれ水分を保つ効果が違います。
食塩のタンパク質を溶かす効果
食塩は筋繊維を溶かしてゆるみを作り、そのゆるみに通常よりも多くの水分を含ませることができるため肉をしっとりと柔らかくする効果があります。 練り物や麺を作るときにこの作用が利用され弾力や粘り、しっとりとした食感を生み出しています。溶かす効果は1~2%の塩分濃度で効果が強く現れますがタンパク質の保水効果が高まる原理は完全には解明されていないそうです。
食塩のタンパク質を固める効果
食塩は肉のタンパク質構造を壊し変性させて固める作用があります。
肉に直接食塩を振りかけると浸透圧によって表面の水分が塩に移動してタンパク質から水分がなくなり固くなります。さらに表面にかけた塩分により肉表面のタンパク質が固まり焼いた時に内部の水分が外部に流れ出ることを防いでくれることで肉が固くなるのを防いでくれます。固める効果は5%以上の塩分濃度で作用が強く現れます。
※熱によるタンパク質を固める効果の増強
タンパク質は加熱すると構造壊れタンパク質同士がくっつきあい固くなります。このことを熱変性といいます。
塩分濃度が高いと肉の表面タンパク質が固くなり焼いた時に肉が固くなるのを防いでくれますが塩分濃度が低くても加熱をするときに表面に塩があると熱変性を起こす温度が低くなるため、加熱中に表面のタンパク質が早く固まり肉内部の水分が外部に流れにくくなり肉が固くなるのを防いでくれます。また塩は水に溶けるとイオンに分かれ、塩水で茹でる場合はタンパク質の表面にある電気的な反発力をイオンがなくして肉表面を固まりやすくします。
そのため塩分濃度が5%以下であってもタンパク質を固める効果は期待できます。
ブライニング
水と塩の肉を柔らかくする作用を利用した塩水に肉をつけて柔らかしっとりジューシーな食感にできるブライニングという方法があります。
ブライニングについては別の記事に詳しく書いてあるのでそちらを参考にしてください。
肉を柔らかくする方法を調べていたらブライニングという方法を知りました。調べてみると方法自体は簡単ですが原理が難しかったので肉を柔らかくする方法とは切り離して一つの記事にしてみました。[adcode][…]
ショ糖(砂糖の主成分)
ショ糖はブドウ糖と果糖が結合したもので構造が水に似ているためタンパク質内の水分と入れ替わりタンパク質が加熱によって縮むのを遅らせる効果があり保水性を上げます。
(砂糖の種類について別の記事に詳しく書きました。)
砂糖を買うとき、なんとなくいつも買う上白糖を買っているのですが、スーパーには上白糖以外にも様々な種類の砂糖が売られています。たくさんの種類の砂糖は知っていても実際どのような違いがあるのか疑問に思ったことはありませんか。今回は[…]
ハチミツ
ハチミツの主成分はブドウ糖と果糖のため、その結合物質であるショ糖と同じ作用があります。さらにハチミツに含まれる成分が臭い成分と結合して揮発を抑えるため肉の臭みを抑えることもできます。またpH3程度の酸性のためさらに保水性も高まります。(下記「pHによる保水性」参照)
ハチミツについては別の記事に詳しく書いてあるのでそちらを参考にしてください。
毎日ハチミツをヨーグルトに混ぜて食べてるのですが家にあるハチミツが急に結晶化したので、その理由を知りたくて蜂蜜について調べてみました。ついでにいつも食べているものなので成分や効能などもまとめてみました。[a[…]
pHによる保水性
食肉は加工されスーパーなどに並ぶ段階ではpHが5程度の酸性です。食肉の保水性はpH5付近で1番少なくなり、pH5よりも酸性でもアルカリ性でも肉の保水性は高くなる性質があります。これはイオンが筋繊維をゆるめて水分を含ませやすくするために起こります。
酸性が強い場合は素材や肉が自身が持つタンパク質分解酵素が活性化してタンパク質を分解してpHのよる保水性と合わさり、より肉が柔らかくなります。
肉を柔らかくするのに使いやすい食材を記載します。
レモン
pH2程度の酸性。酢よりも酸性が強いため保水効果は強い。
酸性が強いので酸味が残りやすいが加熱をすると酸味はかなり少なくなります。
インドでは下味として肉をレモンにつけてから味付けをして焼くタンドリーチキンなどがあります。
コーラ
pH2程度の酸性。以外にもレモン程度の強い酸味がありますがそれ以上に甘さが強いために酸味をあまり感じません。糖分も多く含まれているためショ糖による保水効果も見込めます。
よくネット上でみる方法です。甘みが強いため薄めて使うことになりますが薄めるとpHも中性に近くなるので柔らかくする効果は少なくなります。もともと甘みの強い煮物などが使いやすいです。
酢
pH3程度の酸性。酢の種類によってアルコールや独自の成分などが入っていることがあるため他の作用も期待できます。種類が色々あるので料理にあったお酢を選ぶことができ使いやすいです。
重曹
pH8以上のアルカリ性。食用のものを使用してください。
重曹の粉を水に溶かして食材を漬け込んで使用します。重曹が食材に残っているとアルカリ性による苦味を感じるため漬け込んだ後は洗わなければならないのであまりおすすめできません。
炭酸水
pH5付近の酸性のためpHで肉の保水性を高めることは出来ますが肉のpHに近いため効果は非常に少ないです。どちらかというと水に浸けて水分が含まれるため柔らかくなっていると思われます。余っているものを使うのはいいですが効果が少ないためあまりおすすめできません。なおpHは炭酸が抜けて泡が立たない状態でも変わらずpH5付近を保っています。
アルコール
アルコールは浸透性が高く筋繊維に入り込み水分を保つ性質があります。この保水効果が加熱によって失われる水分を守り、肉が固くなるのを防ぎます。煮る場合は調味液などのアルコール濃度を5〜10%にすると柔らかくなる効果が最も高くなります。
またアルコールは加熱すると揮発するため同時に肉の臭みを飛ばしたり、浸透性が高いためうまみ成分や調味料の味を同時に素材の中にしみ込ませやすくなるという利点もあります。
酒類
様々な種類の酒類はアルコールとpH5以下の酸性のものが多いため肉を柔らかくする効果があります。
その他にも種類によっては独自の成分との相互作用により肉をより柔らかくする効果があるものもあります。
ワイン
ワインはpH3〜3.5付近の酸性ため、アルコールと共に肉の保水性が高まります。またワインに含まれる酒石酸は他の酸にくらべ肉の保水軟化効果が強いそうです。
独特の風味のため赤ワインは牛肉などクセのある肉を、白ワインは鶏肉などクセの少ない肉の風味にあったワインを選ぶとよりおいしく感じられます。
日本酒
pH4付近のため、アルコールと共に肉の保水性が高まります。 日本酒に含まれるアミノ酸によりコクや旨味を増す効果もあります。
米から作られているため米を主食とする日本料理に合いやすいと考えられます。
プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)
プロテアーゼはタンパク質を分解する作用を持つ酵素の総称です。動植物の体内に存在して様々な種類があり栄養の吸収やタンパク質利用など幅広く体内で働いています。
果物を食べた時に舌や口の中がピリピリことがあるのはこのプロテアーゼが口の中のタンパク質を溶かしたために起こります。
もともと肉にもプロテアーゼが含まれているため温度を上げるなどして活性化することによって肉は柔らかくなります。また植物などが持つプロテアーゼを肉に加えることでも肉は柔らかくなります。市販されている「肉を柔らかくする素」のような調味料はプロテアーゼに香辛料や調味料を配合した商品です。
プロテアーゼは植物によってそれぞれ酵素の名前は違いますがタンパク質を分解する効果があります。また酵素の違いにより柔らかくする効果や温度も変わっています。酵素によりタンパク質を分解するため肉につけてから時間が経たないと効果が感じられず、温度を高めることで酵素が活性化し時間短縮できますが温度が高すぎると酵素が分解されてしまい効果がなくなってしまうのである程度加熱前に混ぜて置いておく必要があります。また酵素は加熱で分解されてしまいますが冷凍しても分解されないため酵素のある食材を生のまま冷凍保存すればいつでも解凍して使うことができます。
肉を柔らかくするためにプロテアーゼを利用するにはプロテアーゼを含む食材を細かく切るかできればすりおろすことでプロテアーゼがたくさん肉に付着し効果が出やすくなります。水分を含ませる方法とは逆に肉にフォークなどで穴を開けることで内部にプロテアーゼが入りやすくなり肉が柔らかくなる効果が高まります。
また上記のように保水性を上げて柔らかくする方法ではなくタンパク質自体を分解するためタンパク質がアミノ酸に分解され、このアミノ酸により料理の旨味を増やすことができます。
プロテアーゼは様々な果物、野菜に含まれていますが肉を柔らかくするのに使いやすい食材を抜粋して記載します。
ヨーグルト
ヨーグルトに含まれる乳酸菌が持つプロテアーゼがタンパク質を分解して肉を柔らかくします。乳酸菌には様々な種類があり代表的なブルガリクス菌は自らの栄養であるアミノ酸を作るため乳中のタンパク質を分館することが知られています。日本のヨーグルトにはブルガリクス菌を使用していないものもありますがヨーグルトに使われる乳酸菌の多くはタンパク質を分解することができます。ただし乳酸菌のタンパク質分解能力は乳中で自らの栄養のためにタンパク質を分解するため肉に使用しても乳酸菌は肉のタンパク質をそれほど分解しないため作用は強くありません。
しかしヨーグルトはpH4程度の酸性ため、pHにより肉の保水性は高まります。
肉をヨーグルトに漬けるのは臭い消しや風味付けとpHにより肉の保水性の向上が主な目的となります。
塩麹
塩麹に含まれる麹菌のプロアテーゼがタンパク質を分解して肉を柔らかくします。1日以上漬け込むことで酵素が浸透し効果が出ます。他にも脂肪や炭水化物を分解する酵素も含まれているので総合的に肉を柔らかくする効果は高いです。しかし塩麹自体の味が強くどうしても肉に塩麹の風味が残るため料理によっては使えないこともあります。
生姜
プロテアーゼの一種ジンギパインが含まれています。
最適pHは5程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は60℃のため低温調理で60℃を超えない温度で長時間の加熱であれば常に酵素が活性化して肉を柔らかくします。それ以上の加熱温度では効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
また生姜は独特の風味が強いので料理を選ぶ必要があります。
牛乳の凝固剤としての利用方法があり、この作用を利用して生姜と牛乳でプリンを作ることもできます。豚の生姜焼きは漬け込むことでショ糖と塩、生姜、水分の柔らかくする効果を得ることができます。
パイナップル
プロテアーゼの一種ブロメリンが含まれています。
ブロメリンは生のパイナップルの果実や葉に豊富に含まれていますが缶詰の果実や濃縮還元ジュースは加熱処理されているためブロメリンは分解され効果がありません。
最適pHは7程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は60℃のため低温調理で60℃を超えない温度で長時間の加熱であれば常に酵素が活性化して肉を柔らかくします。それ以上の加熱温度では効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
酢豚にパイナップルが含まれているのは肉を柔らかくするためとされていますが具に入っているような大きさではブロメリンが肉に入りにくいので効果は薄くなります。それでも肉が柔らかいのはブロメリンの効果が強く、下味を付けるときにアルコールや水分、ショ糖、塩などで保水性が上がり衣をつけて揚げることで水分を閉じ込めた結果と考えられます。
キウイフルーツ
プロテアーゼの一種アクチニジンが含まれています。
アクチニジンは生のキウイの果実や皮に豊富に含まれていますが缶詰の果実や濃縮還元ジュースは加熱処理されているためアクチニジンは分解され効果がありません。
最適pHは4程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は40℃のため加熱してしまうと効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
アクチニジンはアレルゲンのひとつであり、品種により含有量に違いがあるためゴールデン種のキウイフルーツはアクチニジンが少なくアレルギーもおこさないことがあります。そのため肉を柔らかくするためには緑色の生のキウイを使わないと効果が少なくなります。
イチジク
プロテアーゼの一種フィカインが含まれています。
最適pHは5程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は60℃〜90℃で、他の酵素と違い90℃の高温でも高い活性があり、低温調理だけでなく茹でるなどの加熱でも酵素が活性化して肉を柔らかくなります。なお90℃ の高温は一般的に酵素は分解され機能しなくなる温度です。
皮により多く含まれ、完熟よりも未熟な方がフィカインは多く含まれています。あまり手軽に売っていないため使いにくいですが酵素が高温でも活性化するため料理によっては使う必要があるかもしれません。
タマネギ
プロテアーゼの一種が含まれています。
みじん切りやすりおろすなどして肉に漬け込み、終わった後の玉ねぎはソースにするなどの使用方法があります。ただし匂いが強いので肉にタマネギのクセが残ることがあります。
梨
プロテアーゼの一種が含まれています。
最適pHは5.5程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は50℃のため加熱してしまうと効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
水分が多くクセも少ないので漬け込みやすく使いやすい食材です。
りんご
プロテアーゼの一種が含まれています。
梨と同じく水分が多くクセも少ないので漬け込みやすく売っている期間も長いので使いやすい食材です。りんごはソースにも使われるため使用後も活用がしやすい食材です。
パパイヤ
プロテアーゼの一種パパインが含まれています。
最適pHは3程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は70℃のため低温調理での加熱では常に酵素が活性化して肉を柔らかくします。それ以上の加熱温度では効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
パパイヤは日本のスーパーでも手に入れやすくなりましたが黄色く熟したパパイアにはパパインはあまり含まれていないため緑色の若いパパイヤを使わなければ効果は弱くなります。未熟なパパイヤは日本ではほとんど売っていないため価格の面などから他の食材を使う方がいいでしょう。
マンゴー
プロテアーゼの一種が含まれています。
マンゴーもキウイなどと同じように食べた後に口の中がピリピリすることがあるのはプロテアーゼが含まれているためです。詳細は調べてもわからなかったのですがパパイヤと同じように完熟すると効果は弱まるようですが熟した果実でも口の中がピリピリすることがあるので熟していてもそれなりの効果は見込めます。
メロン
プロテアーゼの一種ククミシンが含まれています。
最適pHは10程度のため肉に使用する場合はアルカリ性の食材を入れるなどのpH調整が必要になることがあります。
最適温度は75℃のため低温調理での加熱では常に酵素が活性化して肉を柔らかくします。それ以上の加熱温度では効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
ククミシンはプリンスメロンなどの網目模様のメロンに含まれています。メロンの成長過程でタネのまわりで作られていき果肉にも含まれますが果実中央のタネがある果汁の中に多く蓄えられます。成長が終わり食べごろになるとククミシンは作られなくなりますが含まれる量は最大になり減ることはありません。なお、同じ瓜科の瓜やかぼちゃにも似たタンパク質分解酵素がありますが系統の違う瓜科のきゅうりやすいかにはタンパク質分解酵素がありません。
ククミシンの多くはタネが集まる部分の果汁にあるため、肉を柔らかくするには捨てる部分であるタネの塊と汁気(果汁)で肉に漬ければ強い効果が見込めます。そのため本来捨てる部分を利用するためメロンを食べた時にタネの部分を冷凍保存しておけばいつでも利用することができます。
マイタケ
プロテアーゼの一種が含まれています。
最適pHは8.5程度のため肉に使用する場合は特にpHの調整をしなくても近い値になります。
最適温度は65℃のため低温調理での加熱では常に酵素が活性化して肉を柔らかくします。それ以上の加熱温度では効果がなくなるため加熱前によく漬け込み時間をおいておく必要があります。
生のマイタケを茶碗蒸しに入れると固まらなくなるのが有名です。プロテアーゼの最適温度が65℃のため蒸しながらゆっくりと温度を上げていく茶碗蒸しではプロテアーゼ活性する時間が長く卵のタンパク質が分解されることで起こる現象です。この場合はマイタケだけを別に数分間茹でるなどして酵素を分解しておく必要があります。
刻んだマイタケを肉に漬けこめば柔らかくなりますが独特の風味と匂いがあるため料理を選ぶ必要があります。
大根
プロテアーゼの一種が含まれています。
すりおろすことで効果が高まりますが最適温度が低いため加熱してしまうと効果がなくなるので加熱前によく漬け込む必要があります。
他にも脂肪や炭水化物を分解する酵素も含まれているためプロテアーゼ以外でも肉が柔らかくなります。
大根は様々な酵素が入っているため食事でおろし大根を食べると消化を助ける役割があります。
調理方法
タンパク質分解酵素と合わせることで効果を高めることが出来ます。
切り方
肉の切り方を変えることで物理的に肉を柔らかくすることができます。
繊維に逆らう
筋繊維の束を噛み切る時に固く感じるので繊維に対して逆らうように直角に肉を切ると繊維を噛み切らなくなるので固く感じにくくなります。
細く切る
固い肉は細く切ることで固さを感じにくくなります。
ひき肉にする(ミンチ)
細く切ると同じくひき肉にすることで繊維がバラバラになるため固くなくなります。市販のミンチ肉はスネ肉などの固い肉も含まれていたりします。
スジ切り
特に固いスジと呼ばれるコラーゲンなどで作られる部分を分断したり無くしたりすることで固さが少なくなります。
たたく
肉たたきなどで肉をたたくことで筋繊維の結びつきが弱くなり、ほぐれて柔らかくなります。フォークなどで穴を開けることも叩くことの一部です。よくステーキなどで使われます。
まとめ、おすすめ
肉を柔らかくする方法はいろいろありましたが大きく分けて水を含ませるかタンパク質を分解するかになります。焼くなどの水分を出す調理法の場合は水を含ませると水っぽくなり味わいが変わるため注意が必要です。
利用する食材によっては食材自体の風味があるため料理に合わせて食材を選び使用してください。
今回調べた中でやりやすい方法だと思ったものはブライニングとメロンです。
ブライニングは水と塩だけで手軽に出来て効果が高く楽に出来ます。
メロンは酵素が加熱に強く、風味は強くはないので食材に合わせやすく、捨てるタネの部分を使うため経済的でもあります。
肉を柔らかくするときの参考にどうぞ