以前に真空低温調理器具の比較を記事にしましたが、今回は必ず知らなければならない低温調理の危険性と安全性について調べてみました。
以前の記事には書きませんでしたが低温調理(真空調理法)は今までの加熱調理の概念とは異なる方法で加熱調理をしていきます。それゆえ調理における安全の確保が疎かになり食中毒の危険性が高まります。そのため低温調理(真空調理法)を行う場合は必ず危険性を理解した上で安全に調理を行う必要があります。
(これから出てくる温度、時間などの条件は目安となるものであり、食材の状態などの変化により必ず安全であると言い切るものではありません。)
食中毒とは
有害・有毒なや化学物質等毒素を含む飲食物を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病(中毒)の総称である。(ウィキペディア引用)
簡単に言うと悪い食べ物、飲み物を食べて体調が悪くなった状態です。
どんな食材でも少なからず細菌やウィルスなどの微生物は存在しています。
野菜などは生で食べても影響が少ない微生物であったり、微生物自体が少なく影響がなかったりと健康に害が及ぶほどにはなりません。また鮮度が落ちたりしても加熱をして殺菌することにより安全に食べれるようになります。(腐ってしまうと食べ物の構造自体が変化したり、加熱しても分解されない毒素などが生成されることがあるので食べることはできません。)
しかし肉の場合は生き物なので野菜のように、生きていた姿のまま買うようなことは少なく、あってもそのまま丸焼きで食べることは通常はありません。
通常は解体してそれぞれの部位に切り分け消費者へと送られます。この解体時や切り分け時に肉の表面に細菌やウィルスなどの微生物が付着します。動物の筋肉の中には寄生虫を除き無菌状態ですが気道、消化管や皮膚などには微生物が存在しています。その微生物が加工時に肉の表面に付着したり、空中を漂っている微生物が付着した後、条件が合えば時間が経つにつれて微生物が肉の表面で増えていきます。そのため生肉は殺菌のため加熱調理をして食べるのですが、一般的な食中毒予防のための加熱は75℃以上1分以上とされています。
低温調理と加熱殺菌
75℃以上1分の加熱はほぼ全ての食中毒の原因微生物が安全レベルまで死滅するとされています。しかし肉のタンパク質は66℃以上になると変性して固くなる性質があり、そのため殺菌に必要な温度の75℃まで加熱してしまうと肉が固くなってしまいます。
ただし75℃まで加熱しなければ75℃以上1分を殺菌できないのかというと、そうではなく加熱温度が75℃よりも低くても温度に応じて時間をかければ殺菌が可能です。
加熱により微生物を死滅させるための温度は厚生労働省の基準である特定加熱食肉製品の基準に記述がありますが抜粋して書くと、殺菌の目安としての温度と時間が書いてあり63℃では瞬時、60℃で9分、59℃で19分と温度が下がるにつれてかかる時間が増えていきます。(ただし一定の成分規格と製造基準を満たした状態)
しかしこれは特定のよく見られる原因微生物が死滅する時間であり、全ての原因微生物が63℃で瞬時に死滅するわけではなく、原因微生物自体の数が多いとかかる時間は増え、稀な原因微生物の場合は時間がかかったり死滅しなかったりもします。そのため63℃を一定時間保つ必要があり、加熱食肉製品(主にハム、ベーコンなど)として扱える規格基準では肉の中心部を63℃で30分加熱すると記述があり、基本的にはこの温度と時間で加熱すれば安全ですという解釈とされます。
この加熱食肉製品は「特定加熱食肉製品」の規格を満たさないある一定の成分規格と製造基準を満たした加熱する食肉製品に対する規格のため、「特定加熱食肉製品」の規格を満たすような肉の場合は中心温度が63℃になった瞬間に殺菌されていると考えられます。
これは製造における基準となり、しっかりと管理された設備がある工場のための基準であります。家庭では温度を一定に保つ設備などが不足し、衛生状態も悪くなりやすいため、この基準よりは高い温度、長い時間が必要と考えられます。
原因微生物
活動温度
食中毒の原因微生物はいろいろな種類があり、基準にも書いてありますが温度により活動、増殖する時間があります。(例外もあります)
温度 状態
5℃以下 増殖しないがほとんど死なない
5℃〜20℃ 温度が上がるにつれて徐々に活動、増殖する菌が増えてくる。
20℃〜50℃ 非常に活動、増殖する。危険
50℃〜65℃ 菌によっては増殖するものもいるが、死滅するものが多い。
65℃以上 ほとんどの菌が死滅する。
50℃までの温度は微生物が非常に増殖する温度なので、低温調理では50℃後半以上を長時間保ち殺菌を行います。
しかし、全ての微生物に当てはまるわけではなく例外のものもいます。また肉の種類や部位によっては存在する微生物も異なるため、その度に温度を変えるなどの注意が必要です。
主な原因と微生物
- サルモネラ:卵、肉(牛肉のたたき、レバ刺など)、魚などが原因
- カンピロバクター:肉(特に鶏肉)や生の牛レバーなどが原因
腸炎ビブリオ:夏季の魚介類などが原因
腸管出血性大腸菌(O157など):肉、生野菜などが原因
黄色ブドウ球菌:ヒトの皮膚などに存在し、加熱後に手作業を行う食品が原因 おにぎり、弁当、など 菌は熱に弱いが、菌が作る毒素は熱に強く、加熱では無毒化できない。
ノロウイルス:二枚貝(カキ等)などが原因 感染している人の手を通じウイルスが付くことがある。
A型肝炎ウイルス:魚介類が原因 感染している人の手を通じウイルスが付くことがある。
E型肝炎ウイルス:ブタ、イノシシ、シカなどの肉や内臓が原因。
ウェルシュ菌:芽胞を形成は熱に強く、高温・長時間の加熱が必要 加熱調理した後、常温放置した食品が原因 煮物、カレー、麺つゆなど
セレウス菌:芽胞を形成特に熱に強く、高温・長時間の加熱が必要。「おう吐型」は、チャーハン、焼きそば、などが原因。「下痢型」は、あらゆる食品が原因。
ボツリヌス菌:芽胞を形成、特に熱に強く、高温・長時間の加熱が必要 瓶詰、缶詰など、長期間保存されることが多い自家製の食品が原因。
エルシニア:肉(特に豚肉)などが原因 この菌は低温でも増えるので、長期間冷蔵した豚肉も原因。
アニサキス:寄生虫。海産魚介類が原因 冷凍処理により死滅(-20℃で4時間以上)。
クドア:寄生虫。主にヒラメ、マグロが原因 冷凍処理により死滅(-20℃で4時間以上)
食品の主な微生物
牛肉、豚肉、鶏肉
腸管出血系大腸菌、サルモネラ(特に鶏肉)、黄色ブドウ球菌、ウエルシュ菌、カンピロバクター、エルシニア、リステリア、E型肝炎ウイルス(主に豚肉)
卵
サルモネラ、黄色ブドウ球菌
魚
腸炎ビブリオ、サルモネラ、ヒスタミン生成菌、ボツリヌス、ウエルシュ菌、アニサキス、クドア(ヒラメ、マグロ)
二枚貝(カキなど)
腸炎ビブリオ、サルモネラ、ノロウイルス、A型肝炎ウイルス
低温調理の注意
食中毒予防の原則は加熱調理時または調理後に微生物が増殖する温度帯(20℃〜50℃)を出来るだけ少なくすることです。調理時なら素早く温度を60℃以上に上げる、調理後ならば急速に冷却する必要があります。 この点、低温調理だと調理時に微生物が増殖する温度帯が長くなる可能性が高くなります。特にウェルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス菌は芽胞という状態になり通常の加熱では死滅しません。黄色ブドウ球菌は菌自体は弱いですが毒素が無毒化できません。これらの菌は必ずと言っていいほど食材に付着していますが、少ない数では食中毒になることはありません。しかし増殖してしまうと他の微生物では加熱してしまえば死滅することができますが、これらの菌は加熱では食中毒を防ぐことが出来ないため注意が必要です。
まとめ
- 使う食材は新鮮なものを使い5℃以下で保管しておく。
- 真空にするパック、ビニールは新品を使う。
- 手や包丁などはよく洗い、手袋及び消毒する。
- 調理前に器具(湯など)が目的の温度になってから食材を加熱する。
- 充分な時間加熱をする。(肉の状態により異なる)
- 調理後すぐに食べる。
- 残ったものは保存せずに廃棄する。
ということが重要です。
終わりに
通常の調理でも食中毒が起こることがありますので低温調理ではより気をつけなければなりません。食の基本は安全性が第一と思います。
長い文章を読んでいただきありがとうございます。