調理での油脂の酸化と防止方法を調べてみた。

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油の酸化が体に良くないとは聞いたことがあると思いますがその理由があまり明確ではなかったので図書館から専門書を10冊超借りて調べてみました。

一部まだ解明されてないこともありますが、できるだけわかりやすく専門用語は少なく書いていきます。

(調理での油脂の特性を書いています。スキンケアとは見解が異なることがあります。)

(この記事は以前書いた記事を編集し直したものです。)

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油脂の基礎

油脂という名称の「油」は常温で液状の油を差し、「脂」は常温で固体の油脂を差します。油脂は主に脂肪酸とグリセリンという2つの物質から作られ、油脂は脂肪酸の性質により特徴が変わります。

脂肪酸

脂肪酸は大きく分けて構造が安定している飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん)と構造が不安定な不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)に分けられます。脂肪酸は数種類ありますがこの記事では4種類に絞って説明していきます。

飽和脂肪酸

常温では固体の脂です。バターやラードなど動物から取れるものが多いですがココナッツオイルやカカオバターも飽和脂肪酸が主成分です。飽和脂肪酸が多いものとしてはココナッツオイル(やし油)、ラード(豚)、ヘット(牛)、バターなどがあります。

構造が安定しているため加熱に強く、酸化(劣化)されにくい特徴がありますが、体内でエネルギーとして消費されにくく、脂肪として蓄えられやすい油脂です。

不飽和脂肪酸

構造に二重のつながり(二重結合)が1つある一価不飽和脂肪酸と二重のつながりが複数ある多価(たか)不飽和脂肪酸に分かれ、二重のつながりの数が多いほど構造が不安定になり、酸化や分解しやすくなります。

また二重のつながりのある位置によって呼び名が変わり、つながりが3番目にあればn-3(エヌ、マイナス、スリー)またはω-3(オメガスリー)と呼びます。

一価不飽和脂肪酸(いっかふほうわしぼうさん)

代表としてn-9(ω-9)脂肪酸のオレイン酸があります。

一価不飽和脂肪酸は構造が比較的安定していて熱や酸化に強いですが飽和脂肪酸と同じく体内でエネルギーとして消費されにくく、脂肪として蓄えられやすい油脂です。

よく使われる油でオレイン酸が多い油脂はオリーブオイル、キャノーラ油、ひまわり油(ハイオレイック)などがあります。

多価不飽和脂肪酸(たかふほうわしぼうさん)

代表として

n-6(ω-6)脂肪酸のリノール酸

n-3(ω-3)脂肪酸のα-リノレン酸(リノレン酸と省略して記入します。)があります。

多価不飽和脂肪酸は構造が不安定で熱に弱く、酸化しやすい性質があります。しかし体内でエネルギーとして優先的に消費されるため脂肪になりにくく、太りにくい油とされています。

n-6脂肪酸とn-3脂肪酸は必須脂肪酸と呼ばれ、人体に必要な油脂ですが体内で作ることができないため食事で取らなければなりません。必要量はエネルギー比の1〜2%程度のため現代の食事をしていれば不足することはありませんがn-6脂肪酸はあらゆる油に入っているため取りすぎています。n-3脂肪酸も不足することはありませんが食事では取りにくいため、n-6脂肪酸との摂取バランスが悪くなり健康に支障をきたす恐れがあると言われているため、n-3脂肪酸を積極的に摂取するべきでしょう。

n-6脂肪酸リノール酸が多い油脂は大豆油、綿実油(めんじつゆ)、とうもろこし油、グレープシードオイル(ぶどう油)など

n-3脂肪酸リノレン酸が多い油脂はえごま油(荏胡麻油)、あまに油(亜麻仁油、フラックスシードオイル)で食べ物では魚類の特に青魚などに多く含まれています。

酸化

油脂は劣化することを酸化するといいます。この酸化には保存している時に起こる自動酸化と加熱時に起こる熱酸化があります。

自動酸化

自動酸化とは光や酸素により油脂が劣化することです。

油脂に酸素が結びつくことで油脂が変化し、有害な物質である過酸化脂質に変化します。酸素は空気中以外にも油脂そのものにも存在し、光は酸素と油脂が結びつくのを増強させます。

自動酸化は保存している時に緩やかにおこるため、保存時は日が当たらず涼しいところに置いておく必要があります。

過酸化脂質

油脂に酸素が結びついたものを過酸化脂質といいます。この過酸化脂質は自動酸化で作られ、他の物質と共に人体に「老化促進、がん、動脈硬化、皮膚疾患、胃腸疾患、肝臓疾患、脳疾患、成長阻害」などの悪影響を及ぼします。(ただし人体に影響が出るほどの酸化した油脂は臭いや見た目などが明らかに悪くなっているため、口に入る可能性は低いです。)

また、2〜18℃の環境では自動酸化による過酸化脂質の生成が42日で最高値になり、以降は分解され微量の重合物という物質に変化していきます。温度が高いほど過酸化脂質の生成が速くなり最高値が低くなります。(過酸化脂質の生成が最高値になるのは酸素に触れている部分に起こるため瓶などの容量の多いものに入っている場合は油脂内の酸素を使い終わったら大気に触れている油面のみに自動酸化が起こるため、油脂全体の過酸化脂質生成が最高値になるには42日以上の時間がかかると思われます。)

過酸化脂質は加熱すると分解され重合物に変化して、ほぼなくなるため油を加熱すると過酸化脂質の影響はほぼなくなります。(重合物の影響はあります。)

熱酸化

熱酸化とは加熱により油脂が劣化することです。

熱酸化の仕組みは解明されていますが、実際の調理の際は他の要因も重なり酸化の仕組みが非常に複雑になり、詳しく解明されていないところもあります。

熱酸化は100℃以上になると急速におこる反応で自動酸化とは異なり、油脂に酸素が結びついて過酸化脂質が作られます。しかし過酸化脂質は熱により、分解され、他の物質(重合物など)へ変化します。また加熱により酸化重合という反応や水分により加水分解という反応も起こり、これらが合わさり酸化が急速に進んでいきます。

酸化重合

数回揚げ物を繰り返すような長時間の加熱により発生し酸素がないと起きにくく、加熱以外では起きにくい反応です。

加熱により油脂に含まれる酸素と脂肪酸同士が結合して構造が大きくなり変質(重合物になる)すると油脂の粘度が増すため、調理中に泡が消えなくなり、水分の蒸発がうまく出来なくなり、油が悪くなる状態(劣化)になります。換気扇についたベタベタな黒い油が酸化重合した油脂で、これは温かい環境で酸素にさらされることで酸化重合が起きたものです。また自動酸化が進んだ油脂ではより酸化重合が起こりやすくなります。

重合した油脂は揚げ物が出来なくなるだけではなく、体内で消化されにくくなり、有害な物質も作られますが200℃以下または、短時間では緩やかに反応するため一般的な調理では人体に有害になる程、劣化することはありません。(実験としてピーナッツ油と大豆油を175℃で1日8時間加熱することを10日間続けた油を、食事に10%配合してラットに三世代にわたり与えても、未加熱の油を同じように与えたラットとの死亡率に差はなかったそうです。 )

加水分解

揚げ物などにより油に水分が入ると加水分解という反応が起こり、遊離脂肪酸などの物質が生成されます。この加水分解で作られた遊離脂肪酸などが油の風味低下、におい、泡立ち、発煙点の低下が起こり、油が悪くなる状態になります。

酸化のまとめ

酸化には自動酸化と熱酸化がありますが油脂が劣化するという結果以外は反応や作られる物質などは全くの別の現象となっています。そのため酸化を説明するときには自動酸化と熱酸化を分けて説明をしなければなりません。

自動酸化は人体に有害な物質が作られますが加熱をすれば分解され影響はなくなります。熱酸化は人体への影響は実験から少ないようですがにおいや味の劣化や調理不良の原因となります。

調べた結果としては酸化は人体への影響は少ないです。どちらかといえば料理の味や調理不良のほうが問題は大きいようです。

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酸化を防ぐ方法

酸化が調理における味の劣化に関係していることがわかったので、その原因である酸化をどのように防ぐかを考えてみます。

酸化がしやすい原因

  • 酸素(大気中に存在するため取り除くことができません。)
  • 光、熱(自動酸化、熱酸化を増強させます。)
  • 微量金属(植物由来の成分として油脂内に含まれているものがあります。)
  • 酵素(たとえば大豆にはポキシゲナーゼという酸化させる酵素が含まれています。)
  • クロロフィル(植物に入っている物質の作用により光による自動酸化が1450倍になります。)
  • リノレン酸(構造が不安定な不飽和脂肪酸のため酸素と結合しやすい。)
  • リノール酸(構造が不安定な不飽和脂肪酸のため酸素と結合しやすい。)

酸化しにくい原因

  • オレイン酸(構造が比較的安定している。)
  • 飽和脂肪酸(構造が安定した脂肪酸。)
  • 酸素の遮断(カプセルに注入、小分け包装等で大気に触れないようにする。)
  • 光、熱の遮断(冷暗所へ)
  • 精製する(クロロフィルや金属類などの不純物を取り除く処理のこと。)
  • リグナン類(ごまに含まれる酸化を防ぐ物質。)
  • γオリザノール(こめ油に含まれる酸化を防ぐ物質。)
  • ポリフェノール(オリーブオイル、ぶどう油に含まれる酸化を防ぐ物質。)
  • カロテノイド(大豆油に含まれる酸化を防ぐ物質。)
  • その他酸化を防ぐ物質
  • ビタミンE(別名トコフェロール、下記追記)

ビタミンE(トコフェロール)

トコフェロールはビタミンEと呼ばれ抗酸化作用(酸化を防ぐ働き)があります。

トコフェロールはα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の四種類がありα、βは体の機能を整える効果(生体作用)が強く、γ、δは抗酸化作用が強い性質があります。

またトコフェロールは熱に弱く、加熱すると分解されてしまうため、熱酸化の防止には効果が少なくなります。(単一では加熱すると分解され無くなってしますが他の物質の効果によって180℃で24時間加熱しても30%程度分解されず残ることもあります。)

酸化を防ぐ方法のまとめ

油脂自体はオレイン酸が主体で飽和脂肪酸とビタミンE(γ、δ)が多く、精製されたものが酸化に強い。

保存時に日が当たらず、温度が上がらない場所に保管する。

開封すると自動酸化が進むため小分け包装されたものか、容量が少ない瓶詰めものが酸化の影響が少ない。

この要素が油脂の酸化を防ぐ方法です。この方法はすべての酸化に対して予防効果がありますが熱酸化に対しては他の成分により条件が変わります。

次は油脂の加熱について調べました。

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