だしの相乗効果という言葉を聞いたことがあるでしょうか。異なる種類のだしを組め合わせることでうま味の感じ方が何倍にもなるという研究結果が出ています。しかしうま味成分の比率と実際の素材の重さを考慮した相乗効果の割合は知られていません。そのため「うま味成分」の相乗効果の比率がいい割合になる方法を調べました。
結果はデータ上のうま味成分数値から配合を考えて計算しています。実際の調理では食材の相性や香り、味も考えながら調整するため、データ上とは異なる結果になります。
うま味の話
だしのうま味の素となる成分は主に3種類でグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸があります。(貝類のコハク酸もありますが特殊なうま味成分のため省略します。)
まずグルタミン酸はよく知られた成分で肉、魚、野菜、きのこ、海藻などほとんどの食材含まれています。調味料の「味の素」はほぼグルタミン酸でできていて、食材では昆布に桁違いのグルタミン酸が含まれています。
イノシン酸は主に肉、魚に含まれるうま味成分で、煮干しが最もイノシン酸を含み、ついでかつお節が多く含んでいます。
グアニル酸は主にきのこに含まれ、他には少量ですがのり、ドライトマト、肉類に含まれています。中でも桁違いで多いのは干し椎茸です。
だしで使われる食材にはうま味成分が多い
グルタミン酸 昆布
イノシン酸 煮干し、かつお節
グアニル酸 干し椎茸
が使用されます。今回は昆布、かつお節、干し椎茸で説明します。
グルタミン酸はアミノ酸系のうま味、イノシン酸とグルタミン酸は核酸系のうま味で分けられ、相乗効果が得られるのはアミノ酸系と核酸系が合わさることで生まれるためグルタミン酸とイノシン酸、グルタミン酸とグアニル酸で相乗効果が生まれます。
だしの取り方の考え
水との割合
実際にだしを作る料理本を確認したところ、どの素材でも水に対してだしの材料は1%〜5%になっていました。これは料理人の経験からこの割合に行き着いたと思いますが特に根拠などは載っていませんでした。(例:水1リットルに対して昆布30gで割合3%)
うま味の濃さに関しては5%以上にしてしまうと、うま味を感じる上限になるようで5%でも10%でも食べた時に感じるうま味の濃さは変わらなくなります。うま味を濃くしていくとうま味以外の成分も濃くなっていくため素材の持っている匂いや味、さらに余分なえぐみ、苦味などが強くなっていくためうま味成分5%までが料理の風味などバランスが良くなります。さらに濃くすればするほど素材に価格かかりますので経済的にもよくはありません。
薄さに関しては上限が5%とすれば低いぶんにはうま味が少なくなるだけなので味の好みや料理によって濃度を変えます。具の味を際立たせたいのなら薄めの濃度を使い、だしをきかせて食べるうどんなどは濃いめにします。
このように水に対してのうま味の濃さは好みや料理に対する考えで決めていけばいいでしょう。
うま味成分の比率
グルタミン酸とイノシン酸
科学的にうま味成分の比率について考えるとグルタミン酸とイノシン酸の相乗効果の実験ではイノシン酸の割合が10%超えたあたり(9:1)からうま味の感じ方が急上昇してそこから穏やかに上昇を続け50%(5:5)で相乗効果が最高の7倍までいき、その後はイノシン酸が増えきた道を戻るように下降していきます。この実験にグラフでは急上昇したイノシン酸の割合10%のあたりで、うま味の感じ方がすでに5倍近くになっているため他の食材にも含まれるグルタミン酸を入れてもイノシン酸の割合10%を下回らないくらいのイノシン酸20%(8:2)程度の割合がコストや相乗効果、味のバランスがいいと思います。本来は50%(5:5)が相乗効果が一番高いのですがグルタミン酸は多くの食材に入っているので、イノシン酸を増やすと同時にグルタミン酸も増えていくので50%(5:5)にするのは難しく、たとえ出来たとしても味のバランスが悪く、具や味付け時に他の食材でグルタミン酸が足されていくので最終的にグルタミン酸が多くなります。
グルタミン酸とグアニル酸
次にグアニル酸ですがグアニル酸は相乗効果の実験は調べても見当たらなかったので正しいデータはないのですがイノシン酸と同じように一定の割合でうま味の感じ方が急上昇すると思われます。あとで話が出てきますがレシピなどを見てみると、どうもイノシン酸よりグルタミン酸は低い割合で配合しているものが多いように思えます。相乗効果としてうま味の感じ方が増える場合はイノシン酸と同じように急上昇後に緩やかに上昇すると思うので少なめに入れるよりは多めに入れたほうがいいのですが干し椎茸はグアニル酸が多いと同時にグルタミン酸も昆布なみに多いので数値を出すとグアニル酸10%(9:1)が現実的な割合になります。
食材のうま味成分量
食材に含まれるうま味成分の量は
を参考にしました。平均的な値を簡単に数値化しておきます。
(約mg/100g) グルタミン酸 イノシン酸 グアニル酸
昆布 2000
かつお節 30 600
干し椎茸 1000 150
品質、種類などによって数値は変動しますが平均的な数値を出しました。
昆布は種類によりグルタミン酸が1000〜3000程度変動するので、真ん中の2000mgにしました。
うま味成分の相乗効果の比率
グルタミン酸×イノシン酸
先ほどの表を使い、その前に出した比率になるように素材の量をはかり、だしをとります。(うま味成分のみの割合のため、実際のレシピなどとは分量が異なります。)
グルタミン酸×イノシン酸=8:2(水に対して3%)
水 667ml(蒸発分は含まない。)
昆布 10g グルタミン酸 200ml
かつお節 10g グルタミン酸 3ml イノシン酸 60ml
グルタミン酸 203ml:イノシン酸60ml=8:2(少しイノシン酸が多い。)
割合が少し違いますが上記に書いたとおり、調理中グルタミン酸は足されていきますので結果的には8:2くらいになると思います。また昆布の種類などによりグルタミン酸量が少なくてもイノシン酸の割合が増えるだけなので相乗効果はより発揮できます。
昆布とかつお節の割合で言うと約1:1 なのでわかりやすいです。実際にこの量で濃いだしが取れると思います。
グルタミン酸×グアニル酸
いわゆる精進だしです。
グルタミン酸×グアニル酸=9:1(水に対して3%)
水 800ml(蒸発分は含まない。)
昆布 3g グルタミン酸 60ml
干し椎茸 21g グルタミン酸 210ml グアニル酸 31.5ml
グルタミン酸 270ml:グアニル酸31.5ml=9:1(少しグアニル酸が多い。)
これもイノシン酸と同じで、グアニル酸が少し多いくらいがちょうどいいです。グアニル酸は干し椎茸に一番含まれていますが同時にグルタミン酸も多く含んでいるのでグアニル酸の割合を増やすのは難しいです。
昆布と干し椎茸の割合で言うと約1:7 です。しいたけの味が強くでると思います。
グルタミン酸×イノシン酸×グアニル酸
さらに3種を配合した比率もの調べました。
割合は少しグアニル酸が多くなる形です。
グルタミン酸×イノシン酸×グアニル酸=8:2:1(水に対して3%)
水 1167ml(蒸発分は含まない。)
昆布 2g グルタミン酸 40ml
かつお節 10g グルタミン酸 3ml イノシン酸 60ml
干し椎茸 20g グルタミン酸 200ml グアニル酸 30ml
グルタミン酸 243ml:イノシン酸60ml:グアニル酸30ml=8:2:1
データ上の成分割合は完璧ですがしいたけの味が強いと思います。もっとかつお節を入れてもいいかもしれません。
それぞれの割合は昆布1:かつお節5:干し椎茸10です。
だしのとりかた
簡単にだしの取り方も書いておきます。
昆布
30分以上(一晩でもいい)水に浸けておく、鍋などにいれ火にかけ60℃まで温め、60℃を保ったまま1時間以上加熱する。昆布を取り出し完成。
水につけることによりうま味成分が溶け出しやすくなります。温めると成分が出てきますが60℃以上の温度にすると、ねばりと昆布の臭みが出てきてしまいます。また昆布は切り込みを入れると早くうま味成分がでる反面えぐみや臭み、ねばりがでやすくなります。
かつお節
鍋に水をはり、お湯を沸かす。85℃まであげたら火を止めかつお節を入れ、沈んだらこし布などで静かに漉して完成。
素早くできます。通常は昆布だしと合わせて、合わせだしとして使うことが多いです。
温度を上げすぎたり、火をつけたままかつお節を入れると風味が飛んでしまい、えぐみや臭みも出てしまいます。ただしうま味を強く出したい場合は風味を犠牲にして火をつけたまま煮出せばうま味は出ます。
干し椎茸
ゴミを取り除くため干し椎茸と浸かるくらいの量の冷水を入れ、30分程度冷蔵庫に入れ、30分経ったら水は捨てます。分量の冷水入れ、全体が水に浸かるようにして冷蔵庫で12時間保管します。
12時間後、しいたけを具として利用し、戻し汁をだし汁として利用して終了ですがだしのうま味を強くするなら鍋に戻し汁としいたけを入れ、温度を計りながら強火にかけます。軽く混ぜながら70℃になるまで火を弱めず温め、アクが出てきたらこまめに取ります。70℃になったら火を弱め70℃をキープして10分間加熱します。その後80℃〜90℃で5分間加熱してから布などで濾して完成です。
詳しくは以前の記事を見てください。
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まとめ
概要
水と素材(昆布、かつお節、干し椎茸など)の割合 1%〜5%
例=水1000mlに昆布20gで作ると2%
(4%の濃度では昆布が40g必要になるため単純にコストが倍になります。)
うま味成分の比率
グルタミン酸×イノシン酸=8:2 昆布とかつお節の割合1:1
グルタミン酸×グアニル酸=9:1 昆布と干し椎茸の割合1:7
グルタミン酸×イノシン酸×グアニル酸=8:2:1
昆布:かつお節:干し椎茸の割合1:5:10
終わりに
今回の結果はうま味成分の配合のみを考えて計算しているので、どうしてもしいたけの味が強くなります。実際の料理ではだしの素となる素材の風味や味のバランス、具となる素材との相性などが重要になります。
そのためうま味成分の比率だけでなく、料理にあった風味のだしを組み合わせる必要があります。
データから出した数値のため実際のものは成分にばらつきがあると思います。試す場合は参考程度に試してください。
ありがとうございました。